コーチング
■コーチングとは
【ティーチングとカウンセリングとの比較から】
コーチングという言葉が日本に上陸してから10年以上が経とうとしています。関連書籍も多数出版され、コーチングに興味を持つ人も本当に増えてきました。例えばmixiの「コーチング」コミュニティには5000人弱という人が参加しています。
コーチングとはなにもので、どんな役に立つのか?唯一絶対の明快な定義というのものは存在しないようです。日本国内で民間コーチング資格を提供しているのは、有名なところでは
CTI http://www.thecoaches.co.jp/
Coach21 http://www.coach.co.jp
といったところがあります。まずはこれらの定義を参照してみましょう。
コーアクティブ・コーチング( Co-Active Coaching )とは、「人がよりよく生きることをサポートするための強力なパートナーシップ」です。
コーアクティブ・コーチングでは、コーチとクライアントはまったく対等なパートナーとして、クライアントがその持てる力を余すところなく発揮し、人生の可能性を極限にまで拡げられるよう、協働的( Co-Active )に働きかけていきます。
4つの礎
コーアクティブ・コーチングは、次のような考え方のうえに立脚しています。
1. クライアントはもともと完全な存在であり、自分で答えを見つける力を持っている
2. クライアントの人生全体を取り扱う
3. クライアントが主題を決める
4. クライアントと共に、その瞬間、瞬間から創り出す (ダンス・イン・ザ・モーメント)
双方向のコミュニケーションであること(インタラクティブ)
継続的にコミュニケーションを交わすこと(オンゴーイング)
相手にあったコミュニケーションスタイルをとること(テーラーメイド)
余談ですが、Coach21のページの中に「クライアント本人に目標を達成するための戦略を考えさせ」という言葉があるのは印象的です。おそらくCTIでは「●●させる」という表現を公式に使うことはまずないだろうと思われるからです。コーチング各派の姿勢の違いが垣間見えて面白いですね。
また、Coach21は「現在と未来を扱う」と明言しているのに対し、CTIでは時間軸は明言せず「人生全体を取り扱う」とあるのも違いを表している部分かと思います。
さて、Co-ducationの考えるコーチングについて、ティーチングとカウンセリングの違いからみていきたいと思います。
コーチングというものをとらえる時「思考・意識の方向性」と「思考・意識の結果」という二つの切り口から考えていくことは有効であり、分かりやすいものと思います。
▼ティーチング
思考・意識の方向性:ティーチャーが方向付ける
思考・意識の結果:ティーチャーが持つ正解を共有する
▼コーチング
思考・意識の方向性:コーチが方向付ける
思考・意識の結果:クライアントが主体となって生み出す
▼カウンセリング
思考・意識の方向性:クライアントが主体となって方向付ける
思考・意識の結果:クライアントが主体となって生み出す
シンプルに表現すると、どうしても微細なものが抜け落ちてしまいますが、こう見るとカウンセラーというのは何もしていないように見えます(笑)。実際にカウンセラーの方で「私はほとんど何もしていない」と仰る方もいらっしゃいます。このページはカウンセリングの説明ページではないので詳細は割愛しますが、このような違いが3者にはあると言えるでしょう。
CTIのコーチングの説明では「クライアントは完全な存在」とありますが、これはいささか誇張された表現と感じられます。本当に完全な存在であれば、コーチは不要でしょうし、コーチングが提供できる価値はないように思えてしまいます。しかし実際のコーチングの場面では、コーチは明らかにそこに存在しクライアントに影響を与える存在です。しかもほとんどの場合、明確に「質問」という行為によって、クライアントの意識の方向付けを行っています。これは「クライアントが一人で考えるよりも、コーチが意識の方向付けを行ったほうが、効率的効果的に行動変容を導ける」と考えているからに他なりません。
クライアントを尊重する姿勢の大切さを強調するために「クライアントは完全な存在」と表記したのでしょうが、本当のところは「クライアントも不完全だし、コーチも不完全だけれど、二人で頑張れば少しいいだろう」といったあたりが現実ではないか、と考えています。
ここまで書いたようにコーチングとは「思考・意識を方向付ける」ということを行うことによって、クライアントの気づきや学び、変容をサポートしていく能動的な行為であるということがお分かりいただけるかと思います。「思考・意識を方向付ける」ためのコーチの重要な武器が「質問」であることは間違いありません。
コーチにとって重要な基礎能力については後述しますが、コーチングの特徴はやはり「質問する」という行為によって表されるといって過言ではありません。
【コーチングの限界】
当然のことですが、コーチングは万能のものでもなんでもなく、ティーチングやカウンセリングよりも優れた手法であるわけでもありません。ただ、コーチングというコンセプトが活躍できる場面がある、ということに過ぎません。
ティーチャーもカウンセラーもコーチも、一番大切なことは「相手のために」という思いをどれだけ持っているか、それから「相手のためとはどういうことか?」ことを真剣に考える覚悟があるかどうか、だろうと思います。
例えばコーチが、コーチングセッション中にクライアントから「コーチ自身はどう考えていますか?」と聞かれたとします。このときに反射的に「今はコーチングの時間だから、あなた自身が考えてください」と言ってしまう人は「相手のために」「相手のためにとはどういうことか?」を考えることを放棄してしまっていると言えます。これでは、「相手のためのコーチング」であったのが「コーチングのためのコーチング」になり下がってしまいます。
ひたすら傾聴し、共感していくことが仕事といえるカウンセラーの方でも、時には「私はこう思う」「私はあなたはこうしたらいいと思う」ということを言う場合もあるわけです。それはティーチングに近いかもしれませんが、相手のためを思ったら聞くだけじゃなくて、素直に自分の考えを伝えよう、これ以上は共感して聞けないから正直に自分の思いも聞いてもらおう、そう考える時もあるはずなのです。
ですから「思考・意識の方向付け」は行い「思考・意識の結果」はコーチは教えないというのは、もちろんパワフルだからこそ大切なコンセプトなのですが、これは手段であって目的ではないということをよくよく理解しておくことが大切だろうと思います。
たまに経験の浅い、コーチングを習いたての方がセッションをすると、コーチングではなく「誘導尋問」になってしまっている場合があります。言葉上は、質問をし、クライアント自身の考えを尊重していることになっているのですが、コーチ自身が「こうすべきだろう」「こうしたらいいのに」「こういう考え方になったら楽なのに」と「思考・意識の結果」に対する自分なりの意見をもってしまっており、そのままの状態で質問し続けていると誘導尋問になってしまいます。
誘導尋問になるくらいだったら、ティーチングの方がまだましな場合が多いはずです。実際「コーチングは嫌い」と仰る方の多くは、コーチングのテクニックだけ学んだ初心者の方の誘導尋問に不快な経験をさせられた経験があるようです。
コーチングは、コーチングそのものが目的になることはありえず、手段に過ぎない。当たり前のことですが、ここにコーチングの限界があります。
【コーチングの活躍場面】
とは言え、コーチングに多くの活躍場面があるのもまた事実です。意識している/していないに関わらず、活躍しているマネジャー、管理職の方の中にはコーチングを活用している方が大勢いらっしゃいます。
佐藤「あれは、昨日私からメールをしまして、今先方からの返信待ちです」
部長「ああ、メールしといてくれたの。ありがとう。
予算と納期はどうなってるんだっけ?
あとほかに何か重要なポイントあったっけ?」
佐藤「予算は今100万円におさまるように交渉中です。
納期は月末になるということです。
あ、あと新商品の案内についてもして欲しいという話
だったですね。そうだ、急いでやらないと。」
部長「新商品のね、そうだね、急いでやって欲しいな。
時間あるの?他の仕事の状況は?」
極めて日常的なオフィスでの会話のようですが、この中にはコーチングと呼べるものが確実に入っています。例えば「予算と納期はどうなってるんだっけ?」「他に何かあったっけ」というのはコーチングと呼んで差し支えないものです。「時間あるの?他の仕事の状況は?」というのも思考・意識を大切な方向に向かわせています。
ですから、昔から優秀なマネジャーや管理職の方は無意識のうちにコーチングを活用していたわけで、今更、声高に「コーチングをしましょう!」という必要もあまりないかもしれません。社内で「さぁ、今からコーチングセッションの時間です」と部下と1:1の時間を持たなければできないというものでもありません。
しかしではコーチングが不要かというとそんなこともなくて、コーチングを学んでいないことで以下のようなやりとりになってしまっていることもまた、よくあるわけです。
佐藤「あれは、昨日私からメールをしまして、今先方からの返信待ちです」
部長「なるほど。じゃーまた報告して」
例えばこれは、適切な意識の方向付けがないために新商品の件を思い出す機会を失っています。思考・意識の方向付けも、思考・意識の結果を教えることも欠けてしまっています。
納期は月末でちゃんと交渉しといてね。急ぎで。
あー、あと新商品の案内も欲しがってたよね、遅れずにちゃんとやっといてよ。
とにかく遅れないようにね」
佐藤「はい(・・・・)」
今度は、コーチングの基本コンセプトである「相手を尊重する」「相手を信頼する」ということが欠けているため、すっかり佐藤さんの主体性を奪い、腐らせてしまう危険性があります。「言われなくてもちゃんとやってますよ、まったく(怒)」と佐藤さんは思うかもしれません。本当は新商品の件は忘れていたのに、その反省をする機会もありません。遅れないように、と言われてはいるものの、どうすれば他の仕事もある中で遅れずにできるかと考えるチャンスも提供されていません。
かなり単純化なパターンを描きましたが、コーチングの活用場面の一つをイメージしていただくことはできたでしょうか?
コーチングは、正解は決まっていないけれども、考えるべき視点やフレームはあるていどベーシックなものがあるときに非常に効果を発揮します。ですからビジネスコーチングや、キャリアコーチングなどを、ビジネス経験豊かなコーチが実施した場合、その効果は高まる傾向にあります。夫婦円満をテーマにしたコーチングやカウンセリングも世の中には存在しますが、これも「どういう方向に意識付けをしたら効果的か」というフレームを探求し続けている経験豊かなコーチが実施すると、非常に効果が高まりやすいでしょう。
「相手の嫌いなところはどこ?」「これだけは許せないと最近思った相手の行動は?」などと意識の方向を向けていたら円満どころか、離婚コーチングになってしまいます。しかし「一緒に過ごしてきて楽しかった思い出は?」「これからどういうことに一緒に取り組んだたら二人ともが楽しめると思う?」と方向付けていけば、未来が拡がる可能性は高まるはずです。
■コーチングの基礎1【信頼関係を築く】
まずコーチングは、コーチとクライアントが信頼関係を築くところから始まります。コーチングセッションではまず「ここで話されたことは一切外部に漏らさない」という約束をします。これは原則です(ただし、明らかな違法行為があった場合や、自殺をほのめかすような発言があった場合、コーチの判断により他者に連絡する場合はあります)。
これは形式的なようで、とても重要なことで、この約束をコーチが明言しないままセッションを開始するのはお勧めできません。
いわゆる”コーチングセッション”をされる方よりも、ビジネスの中でコーチングを活用していく方のほうが多いかと思いますので、その場合は「今日ここで話すのは、それによって評価するわけじゃないし、他の人になにか言うわけでもないから、そこは安心して欲しいな。約束するよ」というような台詞を冒頭に持つというようになることが多いかと思います。
他に基礎的な要件としては、時間を守る、あまりシチュエーションにあわない服装はしないなどの、社会人として守るべき基本ルールは、コーチングにおいても当然守るということがあるでしょう。
その上で、クライアントとの信頼関係を築いていくのには二つポイントがあります。
一つは、クライアントの話を、もっと言えば存在全体を、しっかりと受け止めるということです。真剣にクライアントの話に耳を傾ける。これについてこのあとの共感して聞くで詳しく紹介します。
もう一つは、自分の存在をオープンにするということです。隠し立てなく、自分の経歴や実績、どういった領域に強いのか、苦手分野はあるのか、今どういう思いでこの場にいるかなどをオープンにすることはとても大切です。特に初めて会うクライアントに対してはこれはとても重要です。
クライアント主体だからといっていきなりクライアントの話を聞き始めるのはあまりお勧めできません。クライアントの立場に立って考えてみれば、この人はどういう人なんだろう?なぜコーチングなんてやっているのだろう?本当に意味のある時間にしてくれるかな?と不安がいっぱいなわけです。その不安を理解し、そこに共感し、しっかりと自分自身をオープンにすることはとても大切なことです。
実際にみなさんがコーチングを学ばれて、例えば職場でそれを活かそうと考えた時に、後輩を会議室に呼んで「よし、じゃー今日は私がコーチになるから。安心して何でも話してよ」と言ったら、後輩はどう思うでしょうか?「どうしちゃったんだろう先輩は?何かあったのかな?」「もしかしたら、僕は何かミスをやらかしたかな?」なんて思うかもしれません。
そこで「いや、先日会社の研修でコーチングというのを学んできたんだけど、それで人の話をちゃんと聞く重要性を痛感してね。今まで、君の話もちゃんと聞けてなかったなってちょっと反省したんだ。まだ習いたてで、今日もどこまでちゃんと聞けるか不安なところも正直あるんだけど、まず君の話をちゃんと聞いてみたいと思って」と、自分の思っているところをオープンしたらどうでしょうか?後輩の心配や不安は、かなり軽減されるはずです。
■コーチングの基礎2【共感して聞く】
ベースとなる信頼関係を築くことができたら、より具体的な話に入っていくわけですが、お勧めはまず「いい質問をしよう」「相手に気づきを与えられる質問をしよう」ということよりも「今日は真剣にこの人の話を聞こう」ということから入るといいでしょう。
「最近、仕事どう?何か困ってることとかある?」くらいは最初に言うかもしれません。でも最初のうちは、あとはひたすら聞き役になるぞ、アドバイスはしないぞ、困っているならその困っている状況を共感して聞くぞ、と思っているくらいのほうがコーチングの効果は高まるはずです。
人は、自分の話を一生懸命聞いてもらえると、一生懸命考え始めます。ところが自分の思いを吐き出しきらないうちに「そうじゃないんじゃないかな」とか「こうしたらいいと思うよ」なんて言われると、たちまち受身的な姿勢になって「はー、そうですか。確かにその通りですね」なんていって、まったく納得していないのに、了承したような言葉をいうようになることがよくあります。それでは、いつものコミュニケーションとなんら変わりありません。折角コーチングというものを活用しようとしているわけですから、まず聞こうとすること、相手の発言を全て価値あるものとして受け止めようとすること、そこに意識を集中させるのが大事なはずです。
【共感しきれない時は】
しかし、つい口をはさみたくなる場面もあるのが実際です。なんだか愚痴ばっかり、ネガティブな発言ばっかりになってきたら、聞くほうも楽しくないし、しんどくなってきます。やたら周りの人のせいにしたりする発言が多いと「おい君、もう少し自分自身が主体となって考えて行動しなきゃだめじゃないか」と言いたくもなります。
それでも、アドバイスするのを”我慢”して、ひたすら一生懸命聞いていれば、結構な確率で最後の5分くらいになって「なんか、ホントに話を聞いてくださってありがとうございます。でも私が話してたのってなんだか愚痴ばっかりでしたね。ちょっと自分が恥ずかしくなりました。もっと愚痴ってないで、自分から動いていかないとダメですね。頑張ります」なって台詞がポッと出てくるから面白いのですが、だからできるだけ聞くのに徹していたらいいと思いますが、やはりそうは言っても聞ききれないときもあると思います。
その場合は、相手へアドバイスをするとか、助言をするとかはせずに、自分の気持ちをオープンにするように意識しましょう。「今日は、君の話を一生懸命聞くと言っていたのに申し訳ないんだが、ちょっと聞けなくなってきた。正直にいうと、それは君にも責任があるように私には思えるのだけれど・・・」
この一言をいうことで、クライアントが「やっぱり先輩は、僕の気持ちなんて分かってくれない」と思ってスネてしまう可能性もあります。しかし、この一言をいうまでの間に本当に真剣に相手の話に耳を傾けて、どうしてもこれだけは言わないではいられない、でも言っていいだろうか、自分が相手を理解してあげられていないだけだろうか、いやでも、これだけは言うべきだと思える・・・そういう葛藤を経て出てきた本物の言葉なら、クライアントも真剣に受け止めてくれる可能性が高いのもまた事実だろうと思います。
詳しくは「フィードバックを返す」をご覧いただければと思いますが、なぜこのような表現が重要かというと「今日は、君の話を一生懸命聞くと言っていたのに申し訳ないんだが、ちょっと聞けなくなってきた。正直にいうと、それは君にも責任があるように私には思えるのだけれど・・・」という言葉には、懸命に話を聞いた者にしかいえない部分があるからです。真剣に聞いていないなら聞き流せばいいだけなので、こんなに悩んだりしないですね。相手の話を聞いて、自分が悩むと言うことは真剣に聞いている証拠なわけです。だから言われた方も、表面的なアドバイスとは全く違った重みで受け止めてくれることが多いわけです。
逆に、共感して聞けていないのに、聞いているフリをするようになるとクライアントとの信頼関係は崩壊します。普通、人間には相手の話を受け入れて聞こうとしても限界があります。自分とあまりに価値観が違う場合や、考え方が違う場合などは、共感して聞こうと思ってもそんなん簡単に共感して聞けるわけではありません。それを「コーチングはアドバイスしない」というコンセプトを盾にして、アドバイスしたいけどしない、でも共感しても聞かない、なんとなくクライアントが話をしているだけ。そうなってしまっては、コーチはその存在意義を失うだけでなく、悪影響すら及ぼす危険性があります。クライアントは「僕の話は聞いてもらう価値がないのだ」と敏感に感じ取るからです。
だから共感して聞くことが難しくなってきたら、共感して聞こうと努力し続けるのが前提ですけれど、誰にでも限界はありますので、限界が来たら「すみません、私のキャパシティの限界になってしまいました。これ以上共感して聞くのは難しそうです」とオープンにした方がいいでしょう。それを隠したまま、本当は聞いていないんだけど、聞いているフリをするようになったら、アドバイスするよりも性質の悪いことになってしまいます。
コーチングでは「自己一致が大切」ということが言われますが、コーチが自己一致していることはとても重要です。真剣には聞いてないけど「聞いてますよ」、本当は共感してないのに「気持ちは分かります」。そういう嘘はクライアントには必ずといっていいほど直感的に見破られます(どうして見破られてしまうのか、といったことに興味がある方は「SQ」を読んでみてください)
共感して聞くというのがとても大切なわけですが、自己一致しながら共感して聞けなければなりません。これが大変難しいことなので、誰にでも簡単にコーチングができるわけではないのだろうと思います。
■意識を方向付ける
ここまで信頼関係を築く、共感して聞くという、コーチングのベースにあるところの話をしてきました。というのは、このベースがなければ、どれほど意識を方向付けるテクニックを学んでも、ほとんどコーチングの効果が上がらないからです。このベースを置き去りにしたまま意識を方向付けるテクニックだけを学んで活用しようとするならば、コーチングはしない方がいいかもしれません。少なくともセッションといった形で、限られた空間に1:1でやる、というのはリスクがあります。
意識を方向付けることだけをしたいなら、適切なフレームや、適切な質問のあるワークシートを、部下や同僚、上司に配るだけで十分です。実際、適切なフレームに則ったワークシートを使ったセルフコーチングには多大な効果があります(例えば野口嘉則氏の「EQコーチング」などはワークシートになっていますが、素晴らしいセルフコーチングの本の一つだと思います)。
コーチングの定義を「コーチングとは」で書きましたが再掲します。
▼コーチング
思考・意識の方向性:コーチが方向付ける
思考・意識の結果:クライアントが主体となって生み出す
コーチングは思考・意識の方向性を、コーチが方向付けるだけではやはり成立せず、思考・意識の結果を、クライアントが主体となって生み出すプロセスを”受け止める”存在としてのコーチが重要なわけです。
【意識を方向付ける】
共感して聞くことをベースにして、意識の方向付けを行っていくのがコーチングの醍醐味と言えるでしょう。これがコーチングの特徴でもあります。
コーチが向かせる方向性にはいくつかのパターンがあります。
- 価値へ焦点を当てる
- 学びへ焦点を当てる
- 未来の可能性へ焦点を当てる
- 事象の客観性を高める
- 事象への主体性を高める
- より具体的に観察する
- 得たい結果のイメージを明確化する
- 結果を得るまでのプロセスを明確化する
他にもいくつかあるでしょうが、主だったところはこういったところでしょう。
対比させる形で、排除するもしくは弱めようとしている方向性を挙げます。
- 負の側面へのフォーカス
- 過去・後悔へのフォーカス
- リスクに片寄ったフォーカス
- 逃避・安定・停滞へのフォーカス
- 環境要因への片寄ったフォーカス
全ての状況に対する質問を網羅することはできませんが、代表的な質問を挙げてみましょう。
▼価値へ焦点を当てる
「そこにはどんな価値がありますか」
「それを乗り越えられたら、どんな成長が待っていますか?」
「それをしたときに、誰が喜んでくれるでしょうか?どんな言葉をかけてもらえるでしょうか?」
▼学びへ焦点を当てる
「そこから学んだことはどんなことですか?」
「その経験が、活かされたことはどんなことですか?」
「次は、どのようにすればよりよい結果が得らると考えていますか?」
「その経験から、どのようなことが学べるでしょうか?」
▼未来の可能性へ焦点を当てる
「10億円あったら、何に、どんな風に使いますか?」
「全てが順調に運んで、最高の日々を過ごしているとしたら、3年後のあなたはどこで何をしていますか?」
▼事象の客観性を高める
「あなたの尊敬する人は誰ですか?その人なら今の状況になんとアドバイスするでしょうか?」
「それと似たような状況には、どのようなものがあるでしょうか?」
▼事象への主体性を高める
「小さな一歩も偉大な一歩の一つです。今あなたが踏み出せる一歩にはどんなことがあるでしょうか?」
▼より具体的に観察する
「その時のあなたの気持ちの変化を、スーパースローモーションにしてみて解説してみてください」
「どのような原因が、それを引き起こしたと思いますか?」
「他にも何かありますか?」
▼得たい結果のイメージを明確化する
「あなたが望むものを、なんでも結構ですので、100個書いてみてください」
「あなたが小説家で夢の国を描くとしたら、どんな国を描きますか?」
▼結果を得るまでのプロセスを明確化する
「それを達成するために、誰のどのような助けがあると達成しやすいでしょうか?」
「それを達成するために、どのようは機会を活かせるでしょうか?」
「それを達成していく途上にはどんなリスクや障害がありえるでしょうか?」
【フィードバックを返す】
フィードバックを返すという章ですが、言葉によるフィードバックを積極的に返していくという話ではありません。意識しなくともコーチはクライアントにフィードバックを返してしまっているということを知っておくことが大切であるということについて書きます。
コーチも人間ですから、セッション中、楽しければ笑顔になりますし、共感が強ければこれもまた笑顔になりやすいものです。逆に、共感できなければ渋い表情になりやすいですし、価値を見出せないような話になれば体はこわばり、表情も硬くなります。
これを減らすことはとても難しいことですし、減らした方がいいとも一概には言えません。
アドバイスをしないようにしていても、現実的にはコーチは表情や声のトーンによって、アドバイスに近いものを返しているのが実際です。「ぜひそうしたらいい!」と思う言葉がクライアントの口から出てくれば、嬉しそうな顔をするものです。この表情をクライアントは感じていますから、これは「ぜひそうしたらいい!」とアドバイスをしているのと同じようなものです。「うーん、それはどうかなぁ・・・。もうちょっと考えた方がよさそうだなぁ」と思っていれば、言葉にはしなくても渋い表情になるものですし、この表情もまたクライアントは敏感に感じ取ります。
ですから、コーチングでは、コーチはあくまでクライアントを主体においてセッションを進めようとするわけですが、実際には、高い相互作用の中で「二人で」創り上げていっているわけです。セッションの質には、当たり前のことですが、クライアントにも責任があると同時に、コーチにも責任があります。
■コーチングの効果を高めるために
コーチングの効果を高めるためにはコーチングを実践する領域に対する勉強がとても大切です。ビジネスコーチングを行おうとする際に例えば、3Cというフレームを知っているのと知らないのでは、知っている方がやはりいいわけです。
「その事業を始めるにあたって、顧客のニーズはどこにありそうですか?」
「競合にはどのようなところがありますか?」
「その事業に活かせる自社の強みはどんなものがありますか?」
効果的な意識の方向付けをするためには、その領域におけるコーチ自身の勉強が大切なわけです。ですから「コーチングは質問する」「質問さえすればコーチングは成り立つ」ということは決してなく、やはりプロフェッショナルとしての精進が必要になるのは間違いありません。
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